飲食店開業に際して、近年脚光を浴びているのが「居抜き物件」です。
「居抜き物件」とはどういうものか、メリット・デメリット、気をつけなければならない点など、まとめてご紹介します。
1.「居抜き」「居抜き物件」とは?
広辞苑第5版では、「居抜き」とは「住宅や店舗を、家具や商品・設備をつけたまま、売りまたは貸すこと」と説明されています。
よって、「居抜き物件」は、店舗や工場、旅館などの、内装や設備が付帯した状態での賃貸や売買の対象となっている不動産ということになります。
一般的に、飲食店用に借りるテナント物件は内装や設備が何もないスケルトン状態であることが多いので、 それらが付いてくる物件を、「居抜き物件」として区別しているのです。
居抜き物件を賃貸借する場合に理解しておきたいことは、テナントとしての賃貸借契約は、物件所有者・貸主と交わし、 内装や設備などの、前借主に所有権(注1)があるものについて、前借主と新借主の間で売買するということです。
物件内の内装や設備は「造作」とよばれ、テナントの前借主から新借主へ造作を譲渡する契約は、 「造作譲渡契約」「造作売買契約」「飲食店舗付属資産譲渡契約」「飲食店舗付属資産売買契約」と呼ばれています。
上記のほかにも「飲食店譲渡契約」や「飲食店売買契約」というのもあるようです。
飲食店経営者にとって居抜き物件は、内装工事や内装解体工事を省略できるという利点があるため関心が集まっています。 現在は、居抜き物件を専門に扱う不動産や、インターネット上でも飲食店開店・閉店向けの居抜き物件専用サイトもあり、居抜き物件を活用しやすくなっているといえるでしょう。
注1:前借主が居抜きで入居していた場合には、前借主が設置したものだけでなく、それ以前の借主が造作又は設置した内装・設備等が存在します。 それらの所有権も、設備等の設置状況・経緯にかかわらず、すべて前借主の所有となることを理解しておきましょう。
2.居抜き物件の造作譲渡契約で注意すべきこと
飲食店の開店を目指す経営者にとっても、飲食店を閉店させて引き上げようという経営者にとってもメリットの大きい造作譲渡ですが、 契約時に気をつけなければならない点がいくつかありますので、順に見ていきましょう。
- 物件所有者・貸主の承諾を得る
造作の譲渡はテナントの借主間で行われるものですが、物件所有者・貸主の承諾を得ておく必要があります。 場合によっては、不動産の管理会社の承諾も得る必要があります。
譲渡を検討する場合には、最初に賃貸契約書の内容を確認しましょう。 譲渡を認めない契約になっていることが通常ですが、交渉次第で認めてもらえることは少なくありません。 ただし、居抜きという言葉を聞いただけで難色を示す物件所有者・貸主もいますので、上手に交渉することが大切です。
- 譲渡項目書を作成する
内見の際の説明だけでは譲渡品に含まれるものについて誤解が生じる可能性が高いので、 契約書に「造作一式」とあっても、必ずリストを添付し、売買の対象となっている物品の認識にズレがないようにしましょう。 特に、譲渡品にリース物品が含まれているかどうかをチェックしましょう(含まれていた場合については6で説明)。
- 譲渡品の状態を確認する
譲渡する側は、すでに明らかになっている故障や不調について隠すことなく伝えることが大切です。 譲渡される側も、設備などはそれぞれの動作確認を行うとともに、後の不満の種にならぬよう、メーカーや使用年数、 使用頻度などの情報を確認したうえで、価格交渉する必要があります。
- 契約書を取り交わす
価格を交渉し、現金を渡して終わりということで、わざわざ契約書を結ばなくてもと考える人がいますが、 譲渡価格にかかわらずきちんと契約書を交わすようにしましょう。後からトラブルに巻き込まれることがないよう、 契約書には「契約解除の条件」など、盛り込んでおくべき条項もありますので、 居抜き専門の不動産業者や行政書士に契約書の作成を依頼したり、リーガルチェックをしてもらったりするとよいでしょう。
- 引渡し前に動作を確認する
引き渡し後に、空調設備が動かない、厨房機器が壊れていたとなるとトラブルのもとになりますので、 引渡し前に動作確認を必ず行うようにしてください。
- リース物品を確認する
店内にリース物品がある場合には、精算して引き上げるのか、契約を引き継ぐのかについて、お互いに誤解がないように明確にしておきましょう。
3.「居抜き物件」のメリット・デメリットは?
★開店コストを抑えることができる
飲食店開店のためには、通常は長い期間がかかり、多くの資金も必要となります。
コンセプトにあった居抜き物件に巡り合えたならば、内装工事がほとんど必要なく、設備も手ごろな価格で入手することができるので、その分を運転資金に回すなどすることができます。
そして、内装工事期間が必要ないので、物件の賃貸借契約を交わしたら時間をおかずに開店することが可能です。
内装の設計や、厨房設備や排気設備などを選ぶ手間が省け、多忙な開店前に時間的な余裕が生まれます。
さらに、内装工事費や設備費を抑えることができると、減価償却費も抑えることができるので、開店時だけではなく、開店後の経営においても、大変助かるでしょう。
★内装や設備などに妥協が必要なことがある
こだわりがある場合には特に、理想とする内装と合致する物件を見つけることは容易くないでしょう。 ある程度の妥協が必要であったり、少し工事を入れる必要が出たりすることがあるかもしれません。
設備についても、揃えたいものと実際に譲り受けるものとに若干の違いがあるかもしれません。
また、設備は開店当初からすでに中古品ということになるので、早期に故障したり、 買い替え時期が早めに来たりすることを想定しておく必要があるでしょう。
4.飲食店舗の物件取得費と内外装費の目安の考え方
物件取得費と内外装費にはどのような費用が含まれているのか、確認しておきましょう。
物件取得費には、以下のような費用が含まれます。
- 保証金:賃料の6ヵ月~10ヵ月程度が相場とされています。
- 礼金:物件所有者・貸主への謝礼金であり、返還されません。賃料2か月分までであることが多いでしょう。
- 仲介手数料:不動産業者への手数料として、通常は賃料の1か月分を支払います。
- 賃料:契約月の日割り計算した賃料と翌月の賃料を合わせて払うのが一般的です。
したがって、物件取得費には、礼金の有無にもよりますが賃料の10~15か月分が目安になります。
また、保証会社を利用した場合の保証会社保証料、管理・共益費、保険料なども考慮に入れる必要があるでしょう。
また、居抜き物件の場合には、造作譲渡費がプラスされます。
内外装費には以下のような項目があります。
- 内装設計、施工費
- 看板施工費
- 厨房機器費
- レジや備品の費用
- 店舗クリーニング費用(場合による)
上記の内外装費以外にも、「販売促進、広告費」「開店前経費」や、従業員を雇うならば「従業員の募集費用」が必要です。
個人開業の小規模飲食店では、開業資金は600万~1,200万円といわれています。その開業資金の使途については、 日本政策金融公庫の「飲食店開設費用の内訳(不動産を購入した企業を除く。)」によると、 「内外装工事」が41.7%、「機械・什器・備品等」が21.1%、「運転資金」が19.1%、「テナント賃借費用」が17.5%となっていました。
ただし、店舗の規模が大きければ大きいほど、物件取得費が高くなり、また、カフェやラーメン店などよりはレストランなどのほうが内外装工事費が高くなることは推察しやすいことでしょう。それぞれが実際にいくらかかるかについては、立地や店舗の規模、業種業態によってかなり変わってくるというということになります。
また、日本政策金融公庫では、開店する予定の飲食店について、どのような要素で特色を出すかという観点で賃料や減価償却費などの固定費を考えることをすすめています。例えば、提供する食事内容で勝負したいのならば、売上に対する原材料費を多めに取れるように、賃料や人件費を抑えるようにする。行き届いたサービスでアピールしたいのならば、人件費に予算を多く割けるように、賃料や諸経費などを抑えておく。あるいは、立地の良さで稼ぐのであれば、賃料が高めであっても良い物件を探すなどです。
売上予測、利益予測を立て、店のコンセプトを勘案し、それらから費やせる物件取得費、内外装費の目安を算出するのもよいでしょう。
5.居抜き物件のタイプと成約の流れ
店をたたむにあたって、経営者が造作譲渡を望む物件を居抜き物件として見てきましたが、 実のところ「居抜き物件」にはいくつかのタイプがありますので、以下にご紹介します。 候補物件に巡り合った際にはどのタイプであるのか注意するようにしましょう。
造作譲渡代金を支払う居抜き物件
これまでご紹介してきた、いわゆる居抜き物件がこれにあたります。現テナント借主の入居中に交渉して、店舗内の造作一式を有償で譲り受けるものです。
このタイプの居抜き物件には、現借主の退却日は決まっており、それまでに引き渡しされる物件と、 現借主が、物件所有者・貸主へ解約予告通知を出していない物件の2種類があります。
解約予告通知が出されていない場合には、造作譲渡の合意が得られてから現借主が物件所有者・貸主に解約予告するため、 物件所有者・貸主の承諾を得るなどのステップから始まるので、成約までの時間がかかることが多いでしょう。 ただし、もともとが「売れたら店をやめる」予定で、切羽詰まった状況ではないことから、立地や客層が好条件であることも多いとも考えられます。
造作譲渡代金を支払う必要がない造作残置の物件
前テナント借主の退去後に造作が残っている状態です。前借主は造作の所有権を放棄しており、 物件所有者・貸主は、次の借主へ無償譲渡することが多いようです。解体や廃棄の手間がかかる場合もありますが、 残置されていることが多い排気ダクトやグリストラップなどをそのまま利用できると、内装工事費を抑えることができます。
そのほかの物件として、内装、厨房設備、什器等が揃っており、すぐに営業が開始できる状態の店舗を、 すべてひっくるめて借りる「リース店舗」というものもあります。 所有権はありませんが、故障の際の修理やメンテナンスなどをリース業者にやってもらえます。
居抜き物件の成約までの流れ
それでは、造作譲渡代金を支払うタイプの居抜き物件について、成約に至るまでの流れを簡単に見ておきましょう。
①居抜き物件専門業者の選定数多くの経験がある信頼性の高い業者を選定することが大切です。
②候補物件の内見内装や設備の状態を見るだけではなく、譲渡対象と先方が引き上げるものを分けて確認することが大切です。
③譲渡項目書の入手どの什器や設備をいくらで譲ってもらうのか、明確にリストアップしたものをもらいましょう。
④造作譲渡契約内容の確定と締結契約は、不動産業者や司法書士など第三者の立ち会いのもとで締結しましょう。
⑤引き渡し動作確認の後、契約通りに代金を支払います。